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I was only joking

音楽・文学・映画・演劇など。アボカドベイビー。

Bob DylanとCloud Nothingsについて

2月から3月にかけてほとんど新譜を聴いていなかった。何を聴いていたかというとボブ・ディランを、萩原健太ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』を読みながらディランをひたすら聴いていた。

 

honto.jp

 

この本、デビューから2012年のテンペストに至るまでのほぼ全てのオフィシャルアルバムのレビューという形式を取りながら、ディランの一貫した方向性を示す優れた一冊である。偉いのは、ディランがいかに女癖が悪く、バンドメンバーの扱いがひどく、どれだけ人間として厄介でダメな存在かをちゃんと書いていること。コーラス隊の女性メンバーのほとんどと肉体関係になっていたという時期もあるし、子供は何人いるかよくわからないし、キャリア全体で見渡してみるととんでもないろくでなしなのだ!そこらのエロ親父以下といっていい。だが、そんな変態エゴイスト野郎であるにもかかわらず、音楽は神懸かりにかっこいい。この二面性を描いてこそのディランだろう。そして、ディランの本質が伝統主義者であり、キャリアを通して変わっていないことをこの本は詳細に確かめている。彼の音楽のバックグラウンドはフォーク、ロックンロール、ブルース、カントリー。ここにキリスト三部作時代のゴスペル、21世紀以降のポピュラーソングが入る程度で、つまり音楽的広がりは思春期までに染み込んだものに限定されていて、決して新しい音楽を取り入れるようなことはしないのだ。同じメロディーが歌い継がれていくフォークの継承者であるという意識の上で、新しい言葉、新しい歌唱を追求したのがディランであり、伝統を絶対に崩さずに革新を生むのが彼のスタイルであるということが、『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』を読むとよくわかるのである。

(ちなみに色々聞き返していちばんグッときたのは68年の『John Wesley Harding』。3人だけのシンプルな演奏とミニマルに盛り上がる展開がまるでポリスみたいでかっこいい)


John Wesley Harding

 

実はディランと平行して聴いていた新譜が一枚だけあり、それはCloud Nothingの『Life Without Sound』だ。

 


Cloud Nothings - "Life Without Sound" [Full LP] (2017)

 

Cloud Nothingsは今のポップミュージックのシーンでは珍しい、とてもシンプルなバンドサウンドを鳴らしている存在である。2009年の活動開始以降常にギター・ベース・ドラムを核に置き、Wipers,Swell Maps,One Last Wish,Pixies,Weezerといったポストハードコア、オルタナティブロックのバンドの影響を感じる楽曲を作り続けている。この4枚目のフルアルバムも基本アプローチは変わらない。ややテンポを落とした曲が増えたものの、半分以上の曲は疾走感を有しているし、ドラムの力強さはより増している。重苦しい曲とメロディが頭に残るポップな曲の共存もほぼ一緒。ただ、歌詞の表現力に変化があったように感じる。以前なら現状の自分と環境への不満をひたすらに叩き付けるような歌詞が目立ったが、今作のリリックはより多義的。「人生が欲しい、今はそれだけが欲しい/僕は生きているけど、ひとりぼっちだ(Modern Act)」「失った僕の一部、勝手に使われてつまらないものになって/だって僕が考えていたのは、傷つくべき人のこと/正しいと感じる、より明るいと感じる(Thing Are Right With You)」といった言葉は、ポジティブな決意を表したものか、ネガティブな失望を描いたのか、どちらかに判断できるものではなく、その両方が混合したような感覚の表現となっている。シンプルな言葉遣いで複雑な人生の機微に触れるようなリリックが増えたのだ。そして、オルタナロックを歌う為に生まれたかのようなざらついた声の持ち主、Dylan Baldiの歌唱は私たちのざらついた日々の真ん中を射抜くかのようである。

 


Cloud Nothings - "Modern Act" (Live at WFUV)

 

思うに、Cloud Nothingのやろうとしていることはボブ・ディランのやってきたこととほとんど同じなのではないだろうか。ディランが4〜50年代の音楽をベースに新しい曲を作り続けたように、Cloud Nothingsは8〜90年代のロックを下敷きに、余計な流行を付け足すことなく音楽を生み続けている。Dirty ProjectorsのDave Longstrengthが中心になって起きた「インディ論争」に置いても、「新しさ」に価値を置くマインドに真っ先に異を呈したのは彼らだった。(以下記事参照)

【徹底討論】インディー・ロックは死んだのか? | Monchicon!

 

Cloud Nothingsが支えとしているハードコアやオルタナティブはここ数年のポップミュージック界では時流に沿わない音楽となっている状態で、おそらく向かい風が吹く場面は多くあっただろう。だからこそ、アメリカのひとつの伝統となりつつあるサウンドを継承し、その灯を絶やさないよう孤軍奮闘を続ける彼らの活動は貴重なのだ。それはボブ・ディランが50年続けてきたこととかなり近い位置にあるのだ。ついでに言うと中心人物の名前もDylanなのだ。

ディランの3枚組の新作は明日発売だし、Cloud Nothingの来日公演は来月に迫っている。以上の観点も含めて、ぼくはとても楽しみにしている。

 

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