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The National/Sleep Well Beastに関するメモ

9月8日(金)に発売となったThe Nationalの7枚目のアルバム『Sleep Well Beast』を家や外で4、5回リピートしたのでとりあえずの印象を。

 

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今回は4曲リードトラックが発表されてて、どれも抜群の出来だったので期待していました。Casey Ressによるデジタルメディアを駆使したMVもめちゃかっこいいし。特に「The System Only Dreams In Total Darkness」と「Day I Die」の痙攣するようなエレキギターの響きが今まで以上の格好良さなのがグッとくる。ちょっとLou Reedの「Vicious」やDavid Bowieの「Moonage Daydream」みたいなグラムロック感もありますね。

 

 

 

 

 

アルバム全体を聞き通してみて、やはりいい。個人的にNationalのベスト2は「Alligator」「High Violet」なんですが、そこに並ぶかもしれない。音響に関しては今作がベストだと思う。4枚目「Boxer」以降Bryan Devendolfのドラムの立体的な迫力は常に素晴らしかったけど、今作はテクニカルな進歩やリズムパターンの幅広さが功を奏してか、これ以上ない格好よさ。エレクトロニクス楽器によるシーケンスが多く使われているのも今回の特徴で、アコースティック色、オーガニック色の強かった全作とはかなり違った印象。基本はいつもの骨太でダンディなNationalで、曲がいきなりダンスポップ化したわけではないが、成熟した男っぽさが特徴のバンドだからこそ、少し軽薄にも聞こえるシーケンスが弁証法的にうまくマッチしている。エレクトロニクス感は、アルバム全体にSF的なイメージを広げる推進力にもなっていて、未来感があるというよりも、SF小説が得意とする社会構造の骨組みを提示する感じが出ている。まるでレイモンド・カーヴァーが描くどん詰まりの日常にフィリップ・K・ディックの社会的想像力が入り込んできたような世界。そのことにおそらく本人達は自覚的で、MV監督にCasey Reasを起用したことがなにより証左だろう。ホラーの雰囲気も漂う田舎道を進むカメラをデジタル画像で分割した「The System Only Dreams In Total Darkness」の映像は本作のオーラ全体を見事に象徴している。そういえば、一週間前に出てWar On Drugsのアルバムもシンセサイザー多めでSF感でてたけど、北米インディ界ではちょっとしたシンセ(が醸し出すSF)ブームなのだろうか。

 

 

 

今のところベストソングは後半のドラムソロが最高の「I'll Still Destroy You」と幽玄なオーラと囁くヴォーカルが今までにない魅力となっているラス曲「Sleep Well Beast」。StoogesかMudhoneyのようなガレージロック「Turtleneck」は結構驚いた。短3度を使うブルースっぽいコード進行はNationalの曲でははじめてじゃないかな。