I was only joking

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Jim O'rouke/Sleep Like It's Winterを1分ずつ聴く(1:00~2:00)

前回はこちら

iwasonlyjoking.hatenablog.com

 

 

前回のやつを書いてみて思ったが、逐語的に音が現れるたびに一つ一つ言葉にしてみても、聴いていない人には全く伝わらない可能性があるぞ。1分間を時系列に沿って具体的に説明しようとするより、1分間丸々の印象を凝縮して抽象的に書いた方が良いかもしれない。しかし、あまりに凝縮し過ぎると1分ずつ聴いていく意味がなくなる。そもそも44分を凝縮した印象で語ると見逃すものがあると思ったから、細かく分解しようと思ったのではなかったか。では、どうする?

ここで私は気づく。

 

「どっちも書けばいい」と。

 

 

では、どっちも書きます。

 

まず、1:00~2:00の凝縮した印象から。

冒頭近くから幾度か現れる「やかん沸騰フィードバック」が幾重にも重ねられていく。モノトーンが濃さを変えて連なった虹を目の前にしているかのような気持ちになる。何度も塗り替えられる白黒。同時に、頭を貫くような高音は、その鋭さゆえに聴くものを少し不安にさせる。頭が壊れてしまうのでないか、ひどい痛みに襲われるのではないか。そんな予感に心がざわつく。淡い色を重ねていくような美意識と、鋭いアイスピックで頭を刺すような暴力性が同時にイメージされる。そんな一分間。

 

具体的に何が起きているかは時系列で書いてみます。

1:00~1:03 持続音が続く

1:03 高音のフィードバックが重なる

1:09 高音がフェイドアウトすると同時に低いdのシンセ音が鳴り出す

1:10~1:25 次々とフィードバックの波が押し寄せてくる。私の感覚で数えると5回。基音となるのはf,a,dあたりだと思われるが、倍音が強いため細かく聞き取れない。その間に、右チャンネルから虫の鳴くようなバックグラウンドノイズが断続的に聞こえている。

1:25 低く柔らかいeのシンセ音。高音の刺激をなだめるかのようにポーンと。しかし高い音の波はこの後も押し寄せる

1:30 ピアノ音がかすかに聞こえる。eの音だ。10秒後には同じ音色で低い方のaがなる。この二音からは、打ち捨てられた屋根裏部屋のようなもの哀しさが伝わる。

1:50 フィードバックの波が少しずつ鎮まり出す。減少していく持続音の中で笛のような響きが大きくなったり小さくなったりする。バッググラウンドでわさわさいっている音が、持続音の残骸か、それとも別のノイズなのかがうまく判別できない。無数の音が出入りしているから、どれが新しく現れた音か、どれが消えかけの音かわからないのだ。

 

2分が過ぎた。ここまでの印象は「ひどく騒がしい音楽」。夜明け前の森の中に似ている。私の実家の近くに大きな森林公園があって、眠れない夏の日に一人でそこまで散歩したことがある。おそらく午前5時頃だったと思うが、森を前にした時の虫の鳴き声のあまりに豊かさにたじろいだ。どんなノイズミュージックよりも騒がしく変化に満ちている。それは不安と安心を同時に与えるような音楽だった。『Sleep Like It's Winter』の最初の2分間は、この時の記憶を思い起こさせる。(つづく)

 

 

jimorourkenwm.bandcamp.com

 

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