『LOCUST』という本の編集長をしておりまして、創刊号が来週日曜、11月25日の文学フリマ東京で発売することになりました。
(文学フリマの情報→https://bunfree.net/event/tokyo27/)
僕が去年から今年にかけて参加したゲンロン批評再生塾の同期生を中心に作った本ですが、「批評」という言葉のイメージとはおよそ結びつかないような本になったと思います。とにかくカタチから入らないと始まらない。これは僕の心情というか世の中そういうものなので、カタチは完璧です。なにせオールカラー。そして横開き。写真使いまくりのデザインがんばりまくりです。読むかどうかはまずおいとこう。持ってるだけでも楽しい本です。買うことが大事です。買いましょう。そして読もう。
と言いつつどんな本かわからないと誰も買わないので、巻頭言を先行公開します。
『LOCUST』はこんな本です。
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『LOCUST』創刊によせて 〜盗み合う旅、そして人間へ〜
これは旅行×批評誌『LOCUST』の創刊号です。手にとっていただいたみなさん、ありがとうございます。
他人の旅を盗みなさい。これが私たちの最初の提言です。
商品や金銭を盗んだら、罰せられます。結婚している人を盗んで恋をすると、社会的・法的に制裁を受けます。しかし、旅の経験は盗んでもなんの罪にもなりません。むしろ、旅はそれを人から盗むことで、より独創的で豊かなものになるのではないでしょうか。
『LOCUST』とは英語で「イナゴ」という意味です。私たちはイナゴの群れのように集団で旅行先を訪れ、それからここに掲載された文章を書きます。そうすることで、個体より細かい単位での感覚や言葉の交換が活性化され、元の個体にはなかった機能が発生した。お互いがお互いを無意識に盗み合うことで、新たな感覚や認識が生まれるという実感を得たのです。
この本はいわゆる旅行ガイドではありません。その場所にはどんなスポットがあるのか、どこで美味しいごはんが食べられるか、交通手段はどうなっているのかなどの役立つ情報がそれほど載っているものではありません。けれども、私たちは『LOCUST』がガイドとして機能すると考えます。この本と読者であるあなたの間に交換が生じることで、新鮮な感覚が旅先であなたの中に生じるのではないか。つまり、あなたが私たちの旅を盗むことで、あなた自身の旅が生まれるのではないか。私たちはそうした希望を抱いています。
今回、私たちは内房地方と東京ディズニーリゾートを旅しました。どちらも千葉県の中にあります。千葉という東京の周辺地を巡ることで、結果的に都市と地方についての関係性を再考する論が多く集まることになりました。都市の権力との微妙な駆け引きの中で、内房という場所は強いファンタジーを生む磁場を獲得していった。そうした主張が、複数の論考の中で繰り返し現れます。ディズニーランドというファンタジーを発生させる場所が千葉県に位置することも、ファンタジーの磁場と大いに関係しているのではないか。ここに掲載された論考を読むと、そのように考えざるを得ません。都市部と周辺部の関係性というのは、全ての近代国家に発生するものです。社会を考えるための一つのアイテムとして、『LOCUST』を読んでいただくこともできるでしょう。
旅行に関する文章が何故批評という形をとっているのか、違和感を覚える人もいるかもしれません。私たちはある作品や作家、あるいは現代の社会状況を対象とするものだけではなく、個人の体験を対象とするものとしても批評は機能するのではないかと考えます。「私はこう感じた」ではなく、「私はこう感じた、のは何故か」を語ることができるのが批評です。人というものがどう感じて、どう動くのか。それそのものを考えるための道具として、批評を使うことができます。『LOCUST』には特定の作品、作家を対象とした批評も掲載されておりますが、それらも全て旅行の体験を元に書かれたものです。個人の体験を解釈し捉え直すことで、数値では計測できない人間の感性の正体や、日常では見えてこない人間と社会との関係を照らし出すためのヒントを、少しでも多く提供することができればいいと考えています。
『LOCUST』は旅行ガイドとしても一つの読み物としても、楽しむことができる本です。ご自由にご活用ください。この本と付き合う中であなたが新しい自分を発見し、社会の有様について考えをめぐらせ、人間とは何かを改めて捉え直すことになったとすれば、私たちとしてこれ以上の喜びはありません。
『LOCUST』と巡る旅、是非ともお楽しみください。
『LOCUST』編集長 伏見 瞬
表紙!
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