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穏やかさや暖かさの印象を与えていたここ数分の時間から、少し不安感や冷たさを感じる時間へ移行したように感じられる。SF的なボワボワ鳴るシンセと天使的なかすかに持続する単音がぶつかる。それは決して気持ちの悪いぶつかり合いではなく、相変わらずとても気持ちのいいサウンドだが、不穏さをどこかに宿している。機械仕掛けの天使に、静かにだが確実に抹殺される。そんな妄想めいたイメージが、思わず陳腐な言葉として飛び出す。
29:00 右からa#の音の冷たいシンセ。左からfのか細い天使的シンセ。
29:02 ぽわぁというシンセの一瞬の浮上。
29:05 右側からd#を基音とした分厚いシンセの壁がせり上がってくる。左側からもa#のシンセが押し寄せる。どちらも少し硬質な印象を与える音。
29:11 左のa#が残る。
29:13 フィードバック音と思われる甲高いcの音。
29:18 低音のd#が聞こえる。
29:20 aの高いシンセがジリジリとしたノイズとともに持続する。d#とaが増4度の関係たのためか、不協和な響き。
29:25 左側から天使的。eの音。単音で聴くと安心感があるが、全体のサウンドスケープとして聴くと不穏。
29:29 eの音がfに変わる。30秒前の反復。
29:30 低音と中音が数秒間増幅。cの中音域シンセが聞こえる。
29:34 左側からa#の音。柔らかい中音域。
29:39 一瞬落ちついた増幅が再び始まる。右側からd#の電子音。初期の電子音楽っぽいサウンド。
20:44 ウニョウニョ響きながら持続するcの音が迫り上がる。左からはgの音が揺れながら一瞬響く。
20:46 音の壁が迫る中、フィルターをかけられたかのようなくぐもったa#の音が聞こえる。
20:49 甲高い、ギラつきを含んだcの音
20:53 cが基音と思われる、輪郭の薄いもわんとした音。
20:54 天使的シンセのe。電子音が音量を減退させながらも、ジリジリとしてノイズを空間に持ち込む。
20:58 天使的シンセが一度aに落ちて、そこからfへ上がる。
レトロな電子音と、現代的な音の響きが絡み合っている。細かく聴くとそのような印象をもつ。とにかず音数は豊富なんだけど、音の種類の多さを「豊か」に感じさせるのも一つの技術なのではないかと言う感慨を抱く。「天使的」と僕が形容したシンセはeからfへの移行をおよそ30秒ごとに繰り返しているが、一度eからaに音程が下がる展開も見受けられて、やはりただの繰り返しにはなっていないということに気づいた。こうした塩梅の見事さは、ある程度の論理的美学として普遍化できるのか、それともジム・オルークという音楽家の天才に還元するしかないのか。(つづく)