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「男らしさ」に縛られないための男の子のバンド5選

英文学研究者でフェミニズム視点からの批評を多く書いている北村紗衣さんの「男らしさ」に関する記事を読んだ。

 

gendai.ismedia.jp

 

この記事の白眉はレッド・ツェッペリンの話から始まるところで、「男らしさ」への懐疑を歌っているバンドが一番「男らしさ」に縛られているという不思議な(だが世の中によくある)逆説が冒頭に語られている。

 

 

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記事の内容に関する応答というほど大した話でもないのだが、思ったのは「自分が好きなバンドで「男らしさ」に縛られているバンドほとんどいなくないか?」ということでした。

僕は中高一貫の男子校出身で、その間に「男らしさ」と「ホモソーシャル」に対する嫌悪が深く根付いてしまった。ツェッペリンだけじゃなく、70年代までのロックバンドが全般的に苦手だったのは多分そのせいだ。同じ理由で、ヒップホップのアクトも心の底から夢中にはなれなかったりする。好きな人も曲もいるけれど。

(ちなみに60年代のバンドで例外的にずっと好きなのはVelvet Undergroundで、60〜70年代では極めて珍しいドラムが女性のバンドだった。モーリン・タッカーさんは神だ。)

 

そんな私は、「男らしさ」を感じない「男の子のバンド」を聴き続けてきた。今回はそこから5つのバンドを勢いで紹介したいと思いたった。今から紹介するバンドのおかげで僕は「男らしさ」を躊躇なく拒むことができているのだろう。眠いし時間もないので紹介は適当だ。あと、昔から好きなバンドばかりあげているので恥ずかしい。

(書き始めるんじゃなかったと思い始めているけど、始まったものは仕方ない。)

 

1.

一つ目。85年のスコットランドグラスゴー。カッコつけているし音はうるさいのに言葉は「君は僕を笑い者にする」っていういじめられっ子の歌で、大事なのはそれでもひたすらカッコいいこと。当時のドラムはボビー・ギレスピーで、ボビーはプライマル・スクリームよりもメリーチェインにいた時の方がはるかに輝いている。 

ツェッペリンとは異なる暴力性を身につけたのも重要。ロックンロールのカッコよさや暴力性を「男らしさ」とは別の形で定義したのが彼らです。1:06~からのクソ簡単なギターソロが最高。

 

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2.  

変なバンドだったんだなと今は思うけど、デビュー当時はカッコよさの塊でしかなかったストロークス。これも「一人なら立てるけど二人だと共倒れ」「頑張らなくていいように頑張ってるよ」などのゴミ人間の歌詞を連発し、しかもそれがカッコよかった。軽快でポップなのに不機嫌で、音は違うけどメリーチェインの後継者だった。 彼らの軽快さはレディオヘッドから影響を受けて登場したMuseColdplayの暗さ、あるいは当時北米でめちゃ売れていたLimp BizkitKornのヘヴィさに対するカウンターだった。

 

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3. 

1985年のグラスゴーのJesus And Mary Chain、2001年のニューヨークのThe Strokesとくると、その次は2011年のコペンハーゲンのIceageしかない。ここには確実にひとつなぎの流れがある。

ハードコアにインダストリアルとNick Caveを取り入れてマッチョイズムを殺しにかかる様はカッコよすぎて俺は嫉妬しまくってた。ボーカルのEliasがレーベルPosh Isolation主催のRokeとやってた電子音楽バンドVår(ウォー)も重要な存在。

 

 

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4.

Iceageとほぼ同期のブルックリンのBeach Fossilsも輝きがあって特に2013年の2nd『Clash The Truth』は最高だった。なんてたってタイトルが。「真実を壊せ」って僕も思うよ。本当のことを言い続けてたら、フェイクニュースと変わらなくなるよ。

リヴァーブのかかったギターとボーカルでふんわりした雰囲気を作るギターポップをやるバンドがみんなオタクでナードっぽくなってた時期に、フォッシルズはいじけることなくスタイルと美学を表現することに徹底していた。ナードであることが「男らしくなれない人間の男らしさ」を表していた時に、彼らはそれを拒否した。ドラムの音の無骨な鳴り方で彼らのスタイルがよくわかる。

この時までギターがDiiv(ダイブ)のZachary Cole Smithで、Diivももちろん大好きなんだけど、フォッシルズはもっとカッコ良いと思われてもいいと思うな。演奏下手なのもいい。すごく上手に下手だな。ColeがDiivやりながらBeach Fossils続けてたらもっとカッコよかったけど。

 

 

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5.

最後です。今ならロンドンにBlack Midiがいるけど、その一つ上の世代のFat White Familyが偉いと思う。このバンドの音は男臭くもある。だけど絶妙な冷たさがそこにあるから偉い。今年でたアルバムもめっちゃいい。ズブズブのサイケロックのポリティカルでもコレクトでもないアンチマッチョな現在。

 

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紹介したバンドは時代も場所もバラバラだけど繋がりがあって、その1つが「男らしさ」の拒否、もしくは無視。挙げたバンドのジャンルはすべて「インディ」「インディロック」に括られるだろうが、「インディ」という言葉は「independent」(独立性)の称揚である以上に「マッチョイズムなきロック」の総称として定義できる。

あとは服装とスタイルがカッコいいところと演奏が下手なところも共通してますね。演奏下手なのが気にならないところも一緒。「カッコいい」という言葉を今回馬鹿みたいに連呼しているけど、「男らしさ」がなくてもカッコよくなれるということを証明したのがメリーチェインやストロークスだってことですね。結果的にですが、今回はサウンドに暴力的なところのあるバンドばかりを選びました。「男性性」と「暴力性」を切り離して表現したのも彼らの特徴です。というか、「男らしさ」のない男の子のバンドはまだまだたくさんいるけど、暴力性をマチズム抜きで再定義したから彼らは特別なんだと思う。

 

正直僕は男らしくあらねばと思ったことがなく、自分の男らしさに悩んだことがない(他人のやつに困らされたことはある)ので、「男らしさ」からの抜け出し方はよくわからない。けれど、このあたりの音楽がロックバンドでありつつロックバンドのアンチとして登場してきたのは間違いないし、そこに「男らしさ」のない「男」の良さを知るヒントがあるかもしれない。今まとめて聴いてみるのはアリだ。メランコリックなノスタルジーじゃない聴き方ができそうだから。

上にあげた全部が自分と同化させて聴いてきたバンドなので、自分で自分のことを褒めているみたいで気持ち悪い。自分を褒めるのは全然いいけど、他のものをダシにして褒めるのは気持ち悪くないか?どうなんだ?とりあえず全部最高なので聴いてみてください。

 

これで5つですが、ついでに日本で「男らしさ」のない男のバンド。定番中の定番だし、本当に多くの男性を救ってきたので今更紹介するまでもない気がしますが。ヴィデオはこの曲が一番好きなので、僕の好きなものを観てください。