I was only joking

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Jim O'rouke/Sleep Like It's Winterを1分ずつ聴く(44:00~44:21)

前回はこちら

iwasonlyjoking.hatenablog.com

 

おい!最後の20秒ふわーっとはじまってさらっとフェイドアウトするだけじゃねーか!書くことなんかないわ!

と思いきや、おわり間際に低音が押し出されて一瞬音が迫ってくるのが気になる。残り10秒でフェイドアウトしていくんだけど、その前の5秒で盛り上がる。なんだこれは?最後の吐息?まじで死ぬ時みたいだな。

44:00 gとa# の音が伸びている

44:04 低音が急上昇。基音はf?

44:06 fからd#に下がったように聞こえる

44:11 音が消えていき、残って聞こえるのはd#の音

44:15 残り5秒。無音が続く。

 

さて、最後まで聴き終わって、改めて最初に戻って聴き通してみました。

わかったのは、この44分21秒は「アンビエントという枠組みの中で多様な変化が生じている」時間だということです。アタック音(パーカッションのような)がなく、持続音を中心に構成されているという点を除けば、いわゆる「アンビエント」らしさはありません。「家具の音楽」として聴き流すことのできない変化と情報量の多さを何よりの特徴としています。

例えば、前半はスティールギターによる高音のフィードバックが忙しなく現れて聴覚を圧倒していたけれど、いつの間にかフィードバックギターが消えて、後半はシンセとピアノの音が中心をなしています。高音部の強い倍音が薄まり、低音よりに音が変わっていくのも判明しました。

前半ではc→d→f→e→aと動くピアノの繰り返しが一つの(もの哀しく冷たい)ムードを形成していましたが、16分40秒で音量が極端に小さくなってからは戻ってきません。21分15秒からはg→c→d→eの低めの持続音が30秒単位でループして陽性の印象を作り出し、28分のあたりで音が収まり、そこからf→a#のシンセの動きは29分49秒のところで初登場し、最後まで幾度も幾度も繰り返されます。アンビエント的な反復構造を規定しているのはループされたメロディで、それ以外の要素はどんどん変化しています。ルート音も、最初はcだったのが、途中でa#に変わっています。

連続記事の途中でも同じようなことを書きましたが、この音楽は表面上は穏やかながら、刻々と、ダイナミックに変化している精神の状況をトレースしているようにも思えます。「内面」の自然と「外面」の自然が境目なく連動してある「動き」を形成している。そのようにも感じます。先ほどのように、使用楽器の変化や、反復するメロディを取り出して、曲の中に構造的なフレームを見つけることはできる。けれども、その変化にドラマツルギー的な(起承転結やソナタ形式のような)意図は見つけられません。ただ、「変化」する「時間」がある。人間によって整えられた音楽は、すべて反復によって成り立っています。小さい単位の反復であれ大きい単位の反復であれ、繰り返しの構造から逃れることは不可能に思われます。そう考えた時、「Sleep Like It's WInter」は、もっとも反復の少ない音楽として僕の前に現れます。何よりも「変化」を受け入れようとする音の連なりが、「反復」の構造を利用した「アンビエント」の枠組みの中で生まれうる。そのことが、僕にはとても興味深く感じられます。

 

「Sleep Like It's Winterを1分ずつ聴く」、2月から初めて、結局12月まで続けてしまいました。後半は1ヶ月に1,2度という頻度でしか更新できず、持続の難しさを改めて噛みしめました。アンビエント電子音楽を記述する自分の言葉の貧しさと向き合う時間も頻繁にあり、描いてる時はなかなかハードに感じていました。とはいえ、新しい音源が登場しては消え登場しては消えを繰り返すサイクルをあまり快く思えないものとして、一つのものにこだわる活動ができたのは間違いなく価値があったし、得たものは実は相当大きいのかもしれない。そのようにも思います。

 

僕の記事をshinkaiさんという方が取り上げてくださっています。

 

shinkai6501.hatenablog.com

 

僕の作業を「作曲」の方法に繋げて読んでくださっており、別の作業と関連づけて考えてもらえるのはこの上ない喜びです。

どうやら、多くの方に読んでいただいたらしく、大変嬉しい。

 

なんだか、本のあとがきみたいになってしまった。。。ここまで、読んでくださった皆さん、ありがとうございました。おしまいです。ブログ自体はまたなんか書きます。

 

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