I was only joking

音楽・文学・映画・演劇など。アボカドベイビー。

Jim O'rouke/Sleep Like It's Winterを1分ずつ聴く(12:00~13:00)

前回はこちら

iwasonlyjoking.hatenablog.com

 

今回は先に時系列で音の運びを確認してみよう。

12:00~05 高いeの音と低いaの音を中心に、いくつかの持続音。

12:07 低音が一度途切れ、すぐに再びgとなって現れる。ほぼ同時に恒例のd,f,e,aのアルペジオ

12:14 水跳ねの鍵盤。この音はいつもgかな。

12:17 低音シンセが再びaに。同時にe音のフィードバックが起こる。

12:22 右チャンネルから跳ねるような鍵盤(だがいつもの水跳ね音とは少し違う気がする)。同時に中央あたりでホロホロと揺れるシンセが聞こえる。

12:23 ピアノ。cが単音で。

12:23~28 bとeの持続音が場を引っ張る。低音がaで、gも聞こえる。コードとしてはAm7(add9)ですかね。冷たさと淡い色彩感の滲むコード感はこの曲全体のムードを形成している。

12:30 鍵盤のアルペジオがなる間に揺れるシンセの音が膨らむ。

12:31~37 低音のcのシンセが4回ほど連打される。

12:40~52 フィードバックの連続。高音から中音域に連鎖している。

12:54 低音がgに。ほぼ同時にピアノのアルペジオ。このフレーズは一分間で三回繰り返されている。

12:55~13:00 フィードバックが重なったまま持続。

 

曲の始まりのフィーリングに戻った印象。フレーズだったり音使いだったりが序盤と似ているのだろう。途中で不協和音が増えたりしたが、ここでは音程がスケール通りに流れている。安心して聞ける一分間。(続く)

 

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Jim O'rouke/Sleep Like It's Winterを1分ずつ聴く(11:00~12:00)

 前回はこちら

iwasonlyjoking.hatenablog.com

 

ここで、今までで一番ドラマチックな事件が起きる。つまり

 

音が消える。

 

音量においては冒頭から飛ばし気味に鳴っていたこの曲だが、一瞬なんの音もしない状況になる。その分、ピアノやシンセの鳴り方がよくわかる。時系列でひとまず整理してみよう。

 

11:00~02 シンセの音が消える。左側の音はフェイドアウト、右スピーカーよりに出ている音は音程を歪がませた後でぽっと消える。線香花火みたいに。

11:05 鍵盤でd,f,e,a。度々登場するフレーズだが、無音から湧き上がった状態だと倍音が多く含まれていることがわかる。オクターブ上のdも直後に鳴らされる。「水の跳ねる音」と何度か形容していた音響と、鍵盤の音は実は同じなのかもしれない。音程の高さによって倍音の感触が異なるので、違う音に聞こえていたのかもしれない。

11:15~23 鍵盤でcの後、残響音が持続し、23秒の時点で音が途絶える。

11:25 ニューエイジ風のシンセとフィードバックが同時に発生。シンセはa,dの和音かな?フィードバックはc。

11:27~39 フィードバックが何層にも重なる。ここも音数が少ないため、重なり方がよく聞こえる。 和音構造はg,c,aあたり。Csus4(add9)かな。

11:40 低音cのシンセ。フィードバックがさらに広がる。

11:42 再びd,f,e,aのアルペジオ

11:45~53 高い音のシンセの揺らぎのみが残る。なんとなく、星のきらめきを想起させるものがある。

11:54 低音のa

11:56 cの鍵盤。

11:57~12:00 フィードバックと低音が広がったまま次の一分間へ。

 

実際に音が途絶えるのは11:03~05、11:23~25と、どちらもほんの数秒。それでも、一切音が発せられていない状態が発生していることは特筆すべきだろう。一音一音の存在感が強く、一分間集中して聴くという聴き方は有効に機能する時間だと感じた。音程としても不協和がなくなり、安定した憂いを見せている。この後の状況がどうなっていくか、全く読めないな。(続く)

 

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Jim O'rouke/Sleep Like It's Winterを1分ずつ聴く(10:00~11:00)

前回はこちら

iwasonlyjoking.hatenablog.com

 

すごくどうでもいいことだが、タイトルの番号を①、②と丸囲みの記号で表示し続けてたのに、11番以降は丸囲みがない!統一できないじゃないか、くそぉ・・・。なんかある気がしてたのに。1回目からタイトル直そうかなぁ。

 

さて、気を取り直して。また一分間聞いてみた。ここでは音がグニャっと動いてる。発された音の音程や倍音が揺らいで、虫のような蠢きを見せる。サックスっぽい音やオルガンっぽい音など、今まで使われなかった音も多く使われている。一音一音を追いかけるのが楽しい時間だと思った。トンボとか蝶々を追いかけている子供の気分に近いかもしれない。全然関係ないけど、僕は最近虫に興味がある。ある人から「虫は種族としてめっちゃ長生きですごい、人間なんて目じゃない」と言われて、「たしかに」と思ってしまった。この一分間も、個体というより、群体の生命力を感じさせるものがある。

 

10:00 サクソフォンシンセサイザーの中間のような音が広がる。最初はd、そのあと一旦途切れてcとc#の間を揺れ動いてく。虫の羽音を思わせるものがある。途切れ方と音程の移り変わり方がサクソフォンっぽいんだけど、インタビューによれば管楽器は使ってないはず。どうやって出しているんだろう。

10:12 お馴染みにフィードバック音が現れるんだけれど、ここでも音が多様に変化する。オルガンのようなものやソフトな目覚まし時計のような音、ホワァと広がるなんとも形容しがたい音。幾重にも重なっていて、つなぎ目も明確ではない。

10:22 これまたお馴染みのgの水跳ね鍵盤。と同時に、細く長続きするフィードバック音が聞こえる。こちらも基音はg。鍵盤の音がそのままフィードバックにつながっているようにも聞こえる。

10:28 低音でaのシンセ。

10:30 笛のような音の音量が大きくなったり小さくなったり。

10:36 笛の音量が大きくなってフィードバック状態。音程はaかな。

10:41 笛音の質感が微妙に変わる。電子音っぽさが出て、左右にパンが振られる。この左右パンの音が15秒ほど断続的に鳴っている。この辺りでピアノもなる。繰り返されているd,f,e,aのフレーズ。

10:47 控えめなフィードバック音、gの音。

10:53 左右に電子音がきらめいていて、真ん中では尺八を思わせるフィードバック音。eの音。控えめというか、ストイックな印象すらある。

10:58 ここから二秒間、音量が急速に減少していく。

 

変化が多いだけあって、書くべきことも多い。もっと細かい変化がたくさんある。この一分間は一つ一つの音が大きくないため、変化も明確にわかる。明確ではないのは音と音の関係。別々に鳴らされているようにも聞こえるし、一つの音が持続しながら変化しているようにも聞こえる。そうした曖昧さがより如実になってくる。まさに個体ではなく群体としての存在感。アンビエントでもオリジネイたーのイーノの曲は比較的一音一音が特定できるように思えるし、僕が大好きなStars Of The Lidは音の壁が押し寄せるフィーリングであるのに対し、Sleep Like It's Winterの音の特徴はそれぞれが単体として活動しながら曖昧に溶け合っている「群体性」にあるのではないか。そんなことを考えながら、次の1分を聞いてみることにする。

 

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imdkmさんが拙ブログを紹介してくれている。嬉しい。

caughtacold.hatenablog.com

 

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Jim O'rouke/Sleep Like It's Winterを1分ずつ聴く(9:00~10:00)

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さて、ようやく10分に届く。長い10分間だった。ここまででもあらゆることが起きたように思うのに、あと35分もあるとは!どうなってしまうのか?

今回も1分聴いた印象を述べたいのだが、この1分間は感情のポイントを定めることが難しい。物々しい感じもするし、穏やかだとも思える。ファニーで楽しいフィーリングもあるのだが、孤独で寂しいという印象も覚える。どっちつかずな、感情的に捉えどころのない音楽世界が展開されている。不協和音が少し増えて、中音域のフィードバックが中心になり、音量的には少し抑え気味だったように思う。

 

9:00〜10 dのフィードバックが広がり、合わせてdシャープより少し低い、dとの間の音程の音も小さい音量で鳴っている。不協和音の印象はここから生まれているだろう。中音域を中心に音が大きくなるが、風鈴のような音も高温で鳴っている。

9:12 雅楽龍笛を思わせる音でcシャープからdシャープへ。こちらも不協和度が高い。

9:14 ピアノでf、直後に水跳ねる音でg。

9:20 この辺りのフィードバック音の構成は低音でgシャープ、中音でd、高音でbフラット。コードネームだとG#sus2(-5)って感じですでに不穏な和音なのだが、音が微妙に上下にずれてるようで余計に気持ち悪い音になっている。それでも、ノイジーだったり不快な感じがしないんだよな。

9:32 水跳ねる鍵盤のgが再び。

9:33 ここで今まで聞いたことのない音。倍音の強いオルガンっぽい高音で、a,f,d,f,dといった音階を奏でている。これはシンセか、それともエフェクターを駆使してギターで鳴らしているのか。

9:40 これまでも頻繁に使われていた低めのcの音のフィードバックが支配的になり、音程的に安定感が戻ってくる。連鎖するフィードバックはfの音。

9:48 水跳ね鍵盤三たび登場。

9:59 サックスの音のようなフィードバックが現れる。dかな。

 

不協和だったり安定していたり、比較的中音域が中心になっているけれども高音もところどころで鳴っていたりと、構成要素がせわしなく変わる一分間。印象がどっちつかずなのはそのためだろう。オルガンっぽい比較的速いパッセージが現れたのは新鮮。まだ新しい音はあったか。(続く)

 

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Jim O'rouke/Sleep Like It's Winterを1分ずつ聴く(8:00~9:00)

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この一分間はなんとなくコミカルというか、ちょっと笑ってしまうフィーリングがあった。後半は少し不穏でホラーっぽい感じもあるのだけど、それも含めてどこか馬鹿らしいマヌケな感触。これは一体なんだろう。

 

8:00 フィードバックの重なり。メインになっているのはc,gあたりの音かな。短波ラジオのチリチリ音も目立つ。

8:06 中音域のフィードバック、gの音が大きくなる。ちょっとオナラを思わせる音で、このあたりがコミカルポイントになってる?

8:08 水弾きシンセ。この音はいつも音程gだよな。同じ音かな。

8:11 高い音でbフラットのフィードバック。

8:12 中域でcシャープのフィードバックが左チャンネルから聞こえる。cシャープが目立って聞こえるのははじめてだ!一瞬でこの音は消えて、直後に音程がベンディングされてcとして現れる。

8:24 ここでgシャープのフィードバックまで現れる。スケールから外れた音が突如として連続しだしたぞ。同時にcのフィードバックも鳴るんだけど、この音はTerry Rileyっぽい。『A Rainbow In Curved Air』感がある。オルガンっぽい音。もしかしたらcとcシャープの間の音程かもしれない。いわゆるクォーターチューニング。

8:32 小さくf,e,aのピアノのアルペジオ。よく使われるフレーズのバリエーション。

8:35 ここで聞こえるフィードバックはaとaシャープの間の音だ。急にどうしたんだ。どうりで不穏でホラーなわけだ。

8:47 いつものピアノアルペジオ

8:53 このあたりで押し寄せるフィードバックにもどこか不協和音に聞こえる。音程が全体的にゆれている感じもする。

 

一聴した限りではそこまで変化があると思わなかったのだけど、細かく時系列で記述すると結構今までと違う。まずcシャープとかgシャープとか、今まで使われなかった音程が現れる。さらには、十二音から外れた、細かい不協和音が入り込んでくる。今までの安定が崩れてる。笑えるとかいっていたのに、全く呑気な状況じゃない。cミクソリディアンの安定した世界系が崩れている。全くもってアンビエントではない。変化にドキドキしている。次はどうなるんだろう。(続く)

 

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Jim O'rouke/Sleep Like It's Winterを1分ずつ聴く(7:00~8:00)

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優しく、圧倒される。前半の(といっても全体から見ればまだ前半なんだが)頭の中を鋭くえぐられるような危険な感じがないまま、音の広がりが押し寄せてきて、聴くものを飲み込んでいく。穏やかなまま死に至らしめる。気がつかないまま死が忍び寄っていくという意味ではより危険な音楽なのかもしれないが、こういった死なら大歓迎な気もする。何より、僕は死んでいない。

 

7:00 フィードバックの波、cとかeとか

7:03 水の跳ねるようなg

7:04〜7:08 何度か繰り返されるc,d,f,e,aのアルペジオ。今回は弾くのが速い。10秒くらいかかっていたものが今回は約4秒。この間に虫の囁きのようなラジオ音も目立ち始める。

7:10 フィードバックでcとd、音階上で隣り合う音が同時に鳴っていて緊張度が強い。といってもちょっと小洒落ている程度のものだけど。

7:15〜7:25 少し低い音のシンセが揺れたまま持続している。蚊の鳴き声のようにも聞こえる。

7:25 やかん沸騰サウンドとラジオサウンドがほぼ同時に広がる。やかんのキーは多分e。

7:30~40 フィードバックの波なのだが、今回が高音域ではなく中域寄り。鋭い感じがしないのはそのせいか。c音とa音のフィードバックが聞き取れる。虫ラジオも相変わらず鳴っている。

7:46 e音のフィードバックが大きくなる。

7:50~ やかん沸騰が目立ち出す。

7:56~ fのフィードバック。f音は比較的少ないような。a,c,e,gあたりが使われやすいので、dやfはテンションノートの役割を担っているのではないだろうか。

 

ここまで聴いて思ったのは、音楽を形成する楽器要素は少ないし、おそらくもうこの時点で出揃っているだろうということ。スティールギター、シンセ、ピアノ、短波ラジオの四つの楽器の音を(エフェクターなどを駆使して)変えて、音のバリエーションを増やしているわけでもなさそうだ。それでも、やはり差異はあるわけで、同じことが起きている一分は一つもない。当然といえば当然の話だが、楽曲構造が反復で成り立っていないことはこの楽曲にとって非常に重要な要素だと思える。前も同じようなこといった気もするけど。(続く)

 

ジム・オルークが蔵出し音源シリーズ(?)として出している「Steamroom」シリーズもちょくちょく聴いています。今のところ「3」が素晴らしい。

steamroom.bandcamp.com

 

Steamroomシリーズ42作を全てレビューしているHiraki Shutaさんの文章も必見。というかめっちゃありがたい。

listening-log.hatenablog.com

 

 

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Jim O'rouke/Sleep Like It's Winterを1分ずつ聴く(6:00~7:00)

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どこか荘厳な雰囲気が漂う。ある種の神秘性みたいなものを常に帯びてはいたけど、今まではもっと音の波にトバされて意識が「向こう側」にいく、みたいな印象だった。ここではトバされるような音というより、静けさの中で聴覚に意識を集中させることで自然の中に深く入り込むような体験になっている。静の中に運動を見出す。それはどこか日本的な美意識ではないかと思うんだけど、実際のところはどうなるんだろう。仏教や俳句の世界を僕はイメージしているのだろうが、本来的にはそれがどこまで日本という地域、あるいは国家と結びついている美意識なのかはちゃんと考えたことなかったな。

そして、ワサワサしている音が短波ラジオの音であることがわかる時間でもある。フィードバックよりもラジオの音が目立っているのがこの一分間だ。

 

6:00〜 g,a,cあたりを基音にしたフィードバック音が重なっているのだが、それぞれの音程が微妙に揺らいでいて、少し不安な感じが漂う。

6:03 短波ラジオの音が目立ち始める。音量の上がり下がりが繰り返されていて、電波が波を形成している感じがよく聞き取れる。

6:09 水を弾くようなg音の鍵盤が単発で鳴る。

6:15~20 ラジオの波とフィードバックの波が同時に迫り上がる。フィードバックのc音が増長してdの音を誘発している感じが鮮やか。音というものは不思議だなという気持ちになる。

6:20 水弾き鍵盤のgが再び

6:25 c,dのフィードバックの上にbフラットが重なる。コードネームだとC7add9だろうか。テンションの強い響きになる。

6:30 三たび水弾きのg

6:31 中域のフィードバック音cの音程がベンディングしていて、管楽器っぽい音に聞こえる。おそらくギターの音なんだろうけど。

6:37 高音のbフラットのフィードバック(もしくはシンセ?)がc音に重なっていて、この辺りもコードの緊張度が高い。

6:44 森の音のような高音のシンセが重なる。音程はちゃんと聞き取れないけどおそらくc。

6:48 再びラジオとフィードバックが迫り上がる。e音のふくらみが目立つ。

6:51 中域のc。20秒前になっていた音と同じものだと思うけど、これも楽器はシンセなのかもしれない。

6:55〜 ラジオ、シンセ、フィードバックとあらゆる音が増えていく。音程も複数に重なっていて、トーンクラスター(和音の全てに音を同時に鳴らす音。房状和音)っぽい響きになっている。

 

そういえば、前回cのミクソリディアンスケールの曲だと言ったけど、この曲の基準になる音はおそらくaなんだよな。a,bフラット,c,d,e,f,gという音階がこの曲のモードだと言えると思うんだけど、この状態を何スケールと呼べばいいのかよくわかりません。音楽理論に詳しい方がいたら教えて欲しいですね。(続く)

 

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